近年、多くの自治体が業務の効率化を進めようと取り組んでいます。人口減少や少子高齢化が進み、限られた人員でより多くの業務をこなさなければならない状況が生まれています。また、住民からのサービスに対する要求はますます高まり、従来のやり方では対応が難しくなってきています。
本記事では、自治体が抱える課題や業務効率化を進めるメリット、具体的な手順、そして成功事例などを解説します。
自治体が抱える課題
多くの自治体が共通して抱えている課題として、以下の3点が挙げられます。
アナログ業務の多さ
多くの自治体では、いまだにアナログな手法が多く使われています。これは主に、文書の受け取り、処理、保管などが紙ベースで行われるためです。たとえば、住民からの申請書類や各種届出書類が紙で提出され、それを手作業で処理し、ファイリングする作業が続けられています。
このようなアナログ業務は、手間がかかるだけでなく、情報の正確性や管理の効率を大きく損なう場合もあります。紙の書類が大量に蓄積されると、必要な情報を迅速に検索するのが困難になり、業務の遅延を引き起こす原因となるでしょう。加えて、アナログ手法では情報の更新や共有に手間どるため、異なる部署間での情報伝達に時間がかかり、業務の効率性が低下します。
電子化・ペーパーレス化対応の遅れ
電子化やペーパーレス化の遅れは、自治体が効率化を進める上での大きな障壁です。多くの自治体では、電子化の必要性は認識しつつも、実際の導入には時間がかかっています。紙の書類を電子データに変換する作業や、電子化されたデータの管理体制の構築には、多くのリソースと時間が必要です。
さらに、電子化に伴うセキュリティ対策やシステムの導入・運用コストも課題となります。ペーパーレス化が進まないと、文書の取り扱いにおいて依然として手間がかかり、また物理的なスペースの管理も必要です。加えて、リモートワークやオンラインでの業務遂行が求められる現代において、電子化の遅れは業務の柔軟性や対応力を低下させる要因とされています。
デジタル人材の不足
デジタル化を進めるには、高度なITスキルを持つ人材が必要です。しかし、多くの自治体ではデジタル人材が不足しており、効率化が進められない場合があります。ITスキルを持つ職員が少ないと、新しいシステムの導入や活用が難しく、また導入後の運用や保守も課題となります。
さらに、デジタル技術に対する理解が不足していると、ツールの選定や導入計画が適切に進まないケースも多いです。このような状況では、デジタル技術を使いこなすための研修や支援が必要ですが、そのためのリソースも限られているため、効率化の推進が停滞する場合が多いのです。
自治体が業務効率化を進めるメリット
自治体における業務効率化にはさまざまなメリットがあります。ここでは、主に現場の負担軽減、住民サービスの質向上、そしてコスト削減という3つの観点から、そのメリットを解説します。
現場の負担軽減
自治体の業務効率化がもたらす最も顕著なメリットの一つは、職員の負担軽減です。
自治体の職員は、多岐にわたる業務を日々こなしており、その中には煩雑で時間のかかる作業も少なくありません。たとえば、書類の整理やデータ入力、住民からの問い合わせ対応など、定型的で反復的な業務が多く含まれます。これらの業務を効率化することで、職員が本来集中すべき重要な業務に時間とエネルギーを注げるようになるでしょう。
特に、RPAツールやAIツールを導入すると、ルーチン業務の自動化が進み、職員の手を煩わせることなく迅速に処理が行われます。この結果、職員は創造性が求められる業務や、住民サービスの改善に向けた取り組みに集中できるようになります。
また、業務が効率化されれば長時間労働の削減にもつながるでしょう。職員のワークライフバランスの向上や、メンタルヘルスの改善にも寄与します。結果として、職員の満足度が向上し、職場全体の雰囲気も良くなるでしょう。
住民サービスの質向上
業務効率化は、自治体が提供する住民サービスの質向上にも直結します。従来、時間や手間がかかっていた手続きが効率化されることで、住民はより迅速かつ正確なサービスを受けられます。
たとえば、オンラインでの手続き申請や、AIチャットボットによる即時対応が導入されれば、住民の待ち時間が短縮されると同時に、サービスの利用がより便利になるでしょう。
また、業務効率化により、職員が住民対応に割ける時間や労力が増えると、個別のニーズに応じたサービス提供が可能になります。住民一人ひとりに対して、より丁寧でパーソナライズされた対応が行えるため、住民の満足度が向上し、自治体に対する信頼感も高まるでしょう。さらに、業務が効率化されることで、ミスやトラブルの発生が減少し、住民とのトラブルも未然に防げるようになります。このため、トータルでみたときのサービスの質が大きく向上するでしょう。
コスト削減
業務効率化は、自治体にとってのコスト削減にも大きく寄与します。効率化により、無駄な作業や重複した業務が排除され、資源の適切な配分が可能になるでしょう。たとえば、紙媒体の書類を電子化すると、印刷費用や紙の保管にかかるコストを削減できます。さらに、RPAやAIツールの活用によって人件費の削減も見込まれます。これらのツールは、一度導入すれば24時間365日稼働し続け、人手で行っていた作業を自動で行うため、職員の作業時間を大幅に減らせるでしょう。
また、業務効率化によってミスやエラーが減ることで、これに伴う修正作業や再処理にかかるコストも削減されます。たとえば、データ入力の際のヒューマンエラーをRPAによって防ぐことで、再処理や確認作業の手間が省けます。これにより、全体的な業務運営コストが抑えられ、その分のリソースを他の施策や住民サービスの向上に回すことが可能です。コスト削減は、自治体の財政に直接的なプラスの影響を与え、持続可能な行政運営の基盤を強化する要素となります。
自治体の業務効率化を進めるための手順・流れ
自治体が業務効率化を進めるためには、まず現在の業務を見直し、効率化の余地がある部分を特定することが重要です。ここでは、そのための具体的な手順や流れを紹介します。
不要な業務やプロセスを洗い出す
自治体の業務効率化を進める第一歩は、現在行われている業務の中で、不要なものや重複しているプロセスを洗い出すことです。このプロセスは、現場の職員との密なコミュニケーションを通じて進める必要があります。職員は日々の業務の中で、無駄や非効率な作業に気付いている場合が多いため、彼らの意見や経験を基に、業務の精査を進めるのが重要です。
業務の洗い出しを行う際には、部門ごとにワークショップやヒアリングを実施し、具体的な業務内容をリストアップします。その上で、業務の重要度や頻度、所要時間などを評価し、不要な業務や改善が必要なプロセスを特定します。このステップを丁寧に行うことで、後続の効率化施策がより効果的に実施できるようになるでしょう。また、洗い出しの結果を可視化し、職員全体で共有することで、効率化に対する理解と協力を得やすくなります。
作業マニュアルを作成する
不要な業務を削減した後は、残った業務をより効率的に進めるための作業マニュアルを作成します。マニュアルは、業務プロセスを標準化し、だれでも同じ品質で作業を行えるようにするための重要なツールです。特に、定型的で繰り返しが多い業務については、詳細な手順書を作成し、職員が迷うことなく作業を進められるようにします。
マニュアルを作成する際には、職員からのフィードバックを取り入れることが大切です。実際に業務を行っている職員の視点から見た改善点や、より効率的な手順を反映させることで、マニュアルの実用性が高まります。また、マニュアルは定期的に見直し、業務の変化や新たなツールの導入に対応するよう更新しましょう。これにより、マニュアルが時代遅れにならず、常に最新の状態で運用されます。
業務内容と課題に合ったツールを選ぶ
自治体の業務効率化を進める上で、適切なツールを選定することは非常に重要です。業務内容や抱えている課題に最適なツールを選ぶことで、効率化の効果を最大限に引き出せます。たとえば、データ入力や文書管理が主な課題であれば、RPAツールやドキュメント管理システムが有効です。また、住民からの問い合わせ対応に時間がかかっている場合は、問い合わせ管理ツールやAIチャットボットの導入が適しているでしょう。
ツール選定の際には、まず自治体の業務フローを詳細に分析し、どの部分に効率化が必要かを明確にします。その上で、市場にあるツールの機能や導入事例を調査し、費用対効果を考慮しながら選定を進めます。また、選定したツールが既存のシステムや業務フローとどのように統合できるかも考慮することが必要です。導入後の運用サポートや、職員への教育プログラムも重要な要素として検討し、スムーズな導入を実現します。
紙媒体を電子化する
紙媒体の電子化は、業務効率化の中でも重要なステップです。紙の書類を電子データに変換すると情報の検索や共有が容易になり、業務のスピードが向上します。電子化に際しては、スキャン作業やデータの整理、電子文書管理システムの導入などが必要です。電子化したデータは、適切なセキュリティ対策を施し、アクセス権限を管理することで、安全に管理します。
また、電子化に伴い、紙の書類の保管スペースが不要になるため、物理的なスペースの削減にもつながります。電子化の進行には、職員への教育やサポートも重要であり、スムーズな移行を支援する体制が必要です。
自治体の業務効率化に役立つツール
自治体の業務効率化を進めるためには、適切なツールの導入が不可欠です。ここでは、自治体で活用されている代表的なツールについて紹介します。
RPAツール
RPA(Robotic Process Automation)ツールは、自治体の業務効率化に効果的なツールです。RPAは、人手で行っていた繰り返しの手作業を自動化する技術で、特にデータ入力や文書の処理、定型業務の自動化に優れています。たとえば、住民からの申請書類を自動で読み取り、データベースに登録する作業や、毎日定期的に行われる報告書の作成・送信作業をRPAによって自動化することが可能です。これにより、職員が時間を割いていたルーチン作業から解放され、より付加価値の高い業務に集中できるようになります。
さらに、RPAツールは、既存のシステムやアプリケーションに影響を与えずに導入できる点も大きなメリットです。システムの大規模な変更や、新しいソフトウェアの開発を必要とせず迅速に導入できるため、コストや時間を節約できます。また、RPAはミスが少なく高い精度で作業を遂行するため、人為的なエラーを防止でき、業務の品質向上にもつながります。自治体の多くの業務が定型的で繰り返しが多いことを考えると、RPAツールは非常に有効な解決策といえるでしょう。
AIツール
AI(人工知能)ツールも、自治体の業務効率化に大きく寄与する可能性があります。AI技術は、ビッグデータの分析や予測モデルの構築に優れており、これを活用することで、自治体の業務の質を向上させられるでしょう。たとえば、問い合わせに対する対応にAIを導入すれば、過去の問い合わせ履歴やパターンを分析し、最適な回答を自動で提示することが可能です。これにより、問い合わせ対応の時間を短縮し、迅速かつ正確なサービス提供が実現します。
また、AIツールは、自治体が抱える膨大なデータを効率的に管理・分析するための強力なツールでもあります。たとえば、人口動態や交通状況、エネルギー消費データなどをAIが分析することで、将来の施策や計画に役立つ予測を行えます。
このように、AIを活用することで、データに基づいた意思決定が可能になり、より効果的で効率的な行政運営が実現します。さらに、AIは継続的に学習・改善する能力を持っているため、導入後も進化を続け、自治体のニーズに応じた柔軟な対応が可能です。
問い合わせ管理ツール
問い合わせ管理ツールは、住民からの問い合わせ対応を効率化するために欠かせないツールです。従来、住民からの問い合わせは電話やメールで受け付け、その対応を手作業で管理していましたが、問い合わせ管理ツールの導入によって、これらのプロセスを一元管理して効率的に対応できます。たとえば、問い合わせの内容や進捗状況をデータベース化し、職員がリアルタイムで確認・更新できるようにすることで、対応の漏れや遅れを防げます。
また、問い合わせ管理ツールは、問い合わせ内容に応じた自動返信機能やFAQ(よくある質問)への誘導機能を持つ場合が多く、これにより職員の対応時間を大幅に削減可能です。さらに、過去の問い合わせデータを分析することで、住民が抱える共通の問題点やニーズを把握し、それに基づいたサービス改善や施策立案が行えます。このように、問い合わせ管理ツールは、住民サービスの質を向上させると同時に、職員の業務負担を軽減するための強力なツールとなります。
自治体が業務効率化を進める際のポイント
自治体が業務効率化を進める際には、いくつかの重要なポイントがあります。ここでは、主なポイントをご紹介します。
職員とコミュニケーションを取る
業務効率化を進めるにあたり、職員とのコミュニケーションは最も重要な要素の一つです。自治体の業務は多岐にわたるため、効率化の施策を適切に進めるためには、現場の職員がどのような課題を抱えているのか、どのような支援が必要かを正確に把握する必要があります。職員が実際に感じている問題点や、日常業務での不満を聞き出すことで、効率化施策を現実的かつ効果的に進められるでしょう。
また、効率化のために導入される新しいツールやシステムに対する職員の理解と協力を得るためには、丁寧な説明と教育が欠かせません。職員が新しいシステムの操作方法や、その利点を理解しないまま導入が進むと、逆に抵抗感を生み、導入の効果が薄れてしまう恐れがあります。定期的な説明会や研修を通じて、職員が効率化の意義や具体的な効果を理解し、前向きに取り組めるよう支援することが重要です。
さらに、効率化施策が進捗する中で、職員からのフィードバックを受け取り、柔軟に対応する体制を整えるのも大切です。効率化は一度にすべてを解決できるわけではなく、職員の意見や実際の業務運営状況を反映しながら、徐々に改善を進めることが求められます。職員とのオープンなコミュニケーションを通じて、現場のニーズに即した効率化を実現しましょう。
他の自治体の事例を参考にする
他の自治体がどのようにして業務効率化を進めているのか、事例を参考にすることは非常に有効です。他の自治体が成功した事例を分析することで、導入の際に生じる可能性のある課題を事前に把握し、対策を講じられるでしょう。また、類似の規模や同じ地域での成功事例は、より現実的な参考事例となり、自治体にとっても施策を実施しやすくなるでしょう。
さらに、他の自治体の事例を参考にする際には、成功例だけでなく失敗例や課題も学ぶことが重要です。成功例からは導入の手法や効果を学び、失敗例からはリスクや注意点を学ぶことで、より堅実な効率化施策を進められます。たとえば、ある自治体がRPAツールを導入した際の問題点や解決策がわかれば、同様の問題を避けるための準備ができるでしょう。
また、他自治体とのネットワークを活用して、定期的に情報交換を行うことも推奨されます。これにより、最新の技術動向や成功事例をタイムリーに把握し、自治体の業務効率化に役立てられるでしょう。情報共有の場を通じて、他自治体の職員と意見交換を行い、自自治体に最適な効率化施策を模索して行くことが、成功への道を切り開く鍵となります。
自治体の業務効率化の事例
ここでは、実際に自治体が業務効率化を進めた事例を紹介します。
北海道東川町の事例
北海道東川町では、AIチャットボットを導入することで、「ふるさと納税」に関する業務を効率化しています。導入前は、ふるさと納税に関する問い合わせに対して職員が人力で対応しており、特に年末年始には多くの問い合わせに対応していたそうです。AIチャットボットを導入することで、自動化でき、職員の負担軽減にもつながりました。
さらに、ヘルプデスクの対応や文章作成、企画立案などの目的でも、AIチャットボットを活用しているそうです。
埼玉県さいたま市の事例
埼玉県さいたま市では、保育所への入所振り分けでAIマッチング技術を導入したそうです。さいたま市では、入所申請者約8,000人を約300施設に振り分ける際に、優先順位、兄弟同一保育所入所希望などの条件ごとに選考する必要がありました。これに約1,500時間がかかっていました。
これを解決するため、AIマッチング技術の検証と市の割当ルールを学習したAIを使用し、最も順当な組み合わせを瞬時に導き出せるようになったそうです。この技術の導入により、約1,500時間かかっていた作業が、数秒に短縮されました。
東京都港区の事例
東京都港区では、人口増に対応するため積極的にICTを活用しています。その一環として、業務効率化のためRPAが導入されました。職員の超過勤務管理事務やデータ作成、産前産後の家事や育児支援サービスの申請処理など、さまざまな業務を自動化できるようになったそうです。
これによって、職員の業務を年間で約2,000時間削減でき、削減した時間を区民サービス向上にあてることが可能になりました。
愛知県豊橋市の事例
愛知県豊橋市では、職員の業務負担軽減のためAIを導入しました。豊橋市は、高齢化の進行に伴う介護給付費の増加や業務の負担増加が見込まれており、対策としてAIの活用が図られています。
具体的な利用シーンのひとつが、AIによるケアプラン作成の支援です。ケアマネージャーがAIに認定調査項目や主治医意見書などを入力すると、AIがケアプランを提示します。ケアマネジャーはその内容を踏まえて修正を加え、ケアプランを提案します。これによって、ケアマネージャーの負担軽減などの効果がみられました。
福岡県宗像市の事例
福岡県宗像市では、RPAを導入しました。導入前は、賃貸借権設定状況がシステムにCSV一括取り込みができず、1件ずつ手入力していたそうです。1件に約10分、それが最大1,800件あったため、最大300時間もの時間がかかっていました。さらに、農耕地の利用状況では、CSV一括取り込みは可能でしたが、データの作成自体に手間がかかり、最大1,150時間かかっていたそうです。
そこで、宗像市の農家台帳システムの個別画面から、必要な情報をRPAで入力できるようにしました。また、農耕地情報更改システムに取り込むためのデータをRPAで作成し、一括取り込みをできるようにしたそうです。これにより、最大約1,450時間かかっていた作業が、約40時間にまで短縮できました。さらに、自動入力のため入力ミスもなくなったそうです。
まとめ
自治体の業務効率化は、住民サービスの質向上やコスト削減、職員の負担軽減など、多くのメリットをもたらします。そのためには、現状の業務を見直し、適切なツールを導入し、職員とのコミュニケーションを重視することが重要です。また、効率化施策を検討する際は、他の自治体の成功事例が参考になります。効率化を進めることで、自治体全体の信頼性が向上し、住民からの信頼をさらに深められるでしょう。
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